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神戸地方裁判所 平成元年(わ)384号 判決

国籍

韓国(済州道済州市禾北里四〇六六番地)

住居

神戸市長田区野田町九丁目四番三号

会社役員

塚原こと

白光範

一九四七年八月一三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官都甲雅俊出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金九六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、罰金額中一五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、神戸市長田区本庄町七丁目五番一六号において「三洋製靴」及び「ブラウン製靴」の屋号で紳士靴製造卸売業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和六〇年分の総所得金額は二億〇八一二万四六一五円で、これに対する所得税額は一億三二二四万一二〇〇円であるにもかかわらず、自己の事業による所得の一部を除外するなどの行為により、その総所得金額のうち二億〇二一二万四六一五円を秘匿した上、同六一年三月一四日、神戸市長田区御船通一丁目四所在の所轄長田税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額は六〇〇万円で、これに対する所得税額が六二万〇一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億三二二四万一二〇〇円との差額一億三一六二万一一〇〇円を免れ、

第二  昭和六一年分の総所得金額は二億八六一二万七八〇八円で、これに対する所得税額は一億八七一三万二五〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、その総所得金額のうち二億八〇一二万七八〇八円を秘匿した上、同六二年三月一二日、前記長田税務署において、同税務所長に対し、同六一年分の総所得金額は六〇〇万円で、これに対する所得税額が七一万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億八七一三万二五〇〇円との差額一億八六四一万七三〇〇円を免れ、

第三  昭和六二年分の総所得金額は一億三六三五万八八五四円で、これに対する所得税額は七三六四万四〇〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、その総所得金額のうち一億三〇三五万八八五四円を秘匿した上、同六三年三月九日、前記長田税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総所得金額は六〇〇万円で、これに対する所得税額が五九万六三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七三六四万四〇〇〇円との差額七三〇四万七七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の公判延の供述

一  被告人の検察官、大蔵事務官に対する各供述調書(検甲二〇ないし五三号)

一  李蒙錫、金愛子、宗判石の検察官に対する各供述調書(同一六ないし一九号)

一  大蔵事務官作成の各所得税確定申告書謄本(同二、四、六号)

一  同作成の各脱税額計算書(同三、五、七号)

一  同作成の各査察官調査書(同八ないし一五号)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、懲役刑及び罰金刑を併科し、情状により罰金額については同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、懲役刑については犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重をし、同法四八条二項により罰金刑については所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金九六〇〇万円に処し、同法一八条により罰金の換刑処分をし、情状を考慮して懲役刑については刑法二五条を適用してこの裁判確定の日から四年間その執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、合計約三億九〇〇〇万円の脱税の事案であり、また、そのほ脱率も約九九パーセントであることから、悪質大胆な犯行というべき面がある一方、実際の不正の行為としては、税理士に対して確定申告書の作成を依頼するに際し、自己が実質経営する別部門の営業を隠した上、毎年の所得は六〇〇万円であるとし、売上帳等少数の証拠書類しかない旨偽つたものの、その他の帳簿、伝票類を破棄、改ざんしたり裏帳簿を作成したりするような手段はとらず、その犯行態様は比較的単純であつて、巧妙な手段を講じて脱税をはかつた事案と比較すればその刑事責任に多少の径庭があること、事件の摘発後は経理を改善し、新たに税理士の指導を継続的に受けることとしており、再犯のおそれが少ないとみられること、事件後、三か年の本税の未払分を納付し、重加算税、延滞税を分割納付中であること、罰金刑以外の前科はなく、反省の態度が明らかであること、被告人の家庭の状況などを参酌すると、主文の懲役刑及び罰金刑のうち懲役刑については、被告人を今直ちに実刑に服させるよりも、刑の執行を猶予し、社会において自ら改善の努力をさせるのが適当であると考える。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤光康)

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